
前回のブログでは、
「子どもの頃に運動が得意=将来もトップ選手」
とは限らない、という研究を紹介しました。
では、ここで一つ疑問が出てきます。
「じゃあ、子どもの頃に何を経験しておけばいいの?」
今回は、ここについて考えてみたいと思います。
「スポーツ」だけが運動経験ではない
例えば、
サッカーをする。
野球をする。
水泳をする。
バスケットボールをする。
もちろん、これらは大切な運動経験です。
でも、子どもの身体を育てるうえでは、
「スポーツを何個やったか」だけではありません。
もっと身近なところにも、たくさんの運動経験があります。
走る。
跳ぶ。
転がる。
くぐる。
登る。
ぶら下がる。
投げる。
捕る。
押す。
引く。
バランスを取る。
転んだときに手をつく。
こうした一つひとつの経験も、子どもの身体にとって大切な「学習」になります。
「走る・跳ぶ・投げる」は、実は特別な動きではない
子どもの基本的な運動技能は、研究の中では「Fundamental Movement Skills(FMS)」などと呼ばれています。
大きく分けると、
① 身体を移動させる動き
走る・跳ぶ・スキップなど
② 物を扱う動き
投げる・捕る・蹴るなど
③ 身体を安定させる動き
バランスを取る・姿勢を保つなど
といったものがあります。
つまり、
「走る・跳ぶ・投げる」は、特定のスポーツのためだけの技術ではない
ということです。
いろいろなスポーツや遊びの中で使われる、もっと基本的な動きなんです。
例えば「ジャンプ」ができると何が変わる?
ジャンプ一つを考えてみましょう。
ジャンプするときには、
足で地面を押す。
腕を振る。
身体を安定させる。
空中で身体をコントロールする。
着地する。
という、たくさんの要素があります。
これが、
サッカーなら「競り合い」や「ヘディング」。
バスケットボールなら「シュート」や「リバウンド」。
バレーボールなら「スパイク」や「ブロック」。
陸上なら「走り幅跳び」や「ハードル」。
などにつながっていきます。
だから、
一つの動きを経験することは、将来のいろいろな動きにつながる可能性があります。
「転ぶ」ことだって経験になる
もう一つ、子どもの頃に経験してほしいのが、転ぶこと。
もちろん、わざと危険なことをさせる必要はありません。
でも、転びそうになったときに、
手をつく。
身体を丸める。
バランスを立て直す。
姿勢を変える。
こうした経験は、身体を守るための重要な経験になります。
「転ばないようにする」だけではなく、
「転びそうになったとき、どう身体を使うか」
を経験しておくことも大切です。
研究でも「基本的な動き」と身体活動には関係がある
2024年に発表された就学前の子どもを対象としたシステマティックレビューでは、3~6歳の子どもを対象とした26研究をまとめています。
その結果、基本的な運動技能と身体活動量には一定の関連があり、特に移動動作や物を扱う技能との関連が報告されています。
さらに2025年のメタ解析では、3~7歳の子ども1,121人を対象とした10研究を分析。
運動プログラムによって、
走る・水平跳び・蹴る・捕る・オーバーハンドスロー・動的バランス
など、複数の基本的な運動技能に良い影響が認められました。
つまり、
「いろいろな動きを経験すること」は、ただの感覚的な話ではありません。
子どもの運動発達を考えるうえで、研究でも重要なテーマになっています。
「何のスポーツをやらせるか」だけじゃない
子どもの習い事を考えるとき、
「サッカーと野球、どっちがいい?」
「水泳をやらせたほうがいい?」
「早くから競技を始めたほうがいい?」
と考えることは多いと思います。
もちろん、それも大切です。
でも、その前に一度、
「この子は、どんな動きを経験してきたかな?」
と考えてみてほしい。
走ることは好き?
ジャンプはできる?
ボールを投げることは?
片足で立てる?
登ったり、ぶら下がったりしたことは?
転んだときに手をつける?
身体を思い通りに動かして遊んでいる?
こうした経験の積み重ねも、子どもの身体にとって大きな意味があります。
だから、全部「上手にできなくてもいい」
ここは、私自身が保護者の皆さまに一番伝えたいところです。
「正しいフォームで走ってほしい」
「かっこよくジャンプしてほしい」
「ボールを上手く投げてみて」
と考えすぎる必要はありません。
子どもの時期は、まず経験すること。
やってみる。
うまくいかない。
もう一度やる。
遊びながら試してみる。
その中で少しずつ、
「こうやったらできる!」
という感覚が生まれてきます。
「できる」より先に「やってみた」がある
「ちょっと苦手」
「うまくできない」
という子ほど、
できる・できないを気にせず、いろいろな動きを経験することが大切だと思っています。
最初は転んでもいい。
ジャンプが低くてもいい。
ボールが遠くに飛ばなくてもいい。
バランスを崩してもいい。
「やってみた」という経験が、次の「やってみよう」につながります。
子どもの頃だからこそ、たくさん経験してほしい
子どもの成長は、一直線ではありません。
今日できないことが、明日にはできるようになることもあります。
逆に、今すごく得意なことが、ずっと得意とは限りません。
だからこそ、「今、何ができるか」だけではなく、「今、何を経験しているか」を大切にしてほしいと思っています。
今好きなスポーツが、これからも好きとは限りません。
今はサッカーが好きでも、数年後にはバスケットボールをやりたくなるかもしれない。
野球を始めるかもしれない。
ダンスを始めるかもしれない。
何か別のスポーツに出会うかもしれない。
もしかしたら、スポーツではないかもしれません。
そのとき、
これまでに経験してきた「挑戦」が、また新しい「挑戦」を支えてくれる。
私たちは、そんな心と身体を育てたいと考えています。
参考文献
- Yang Y, Mao X, Li W, Wang B, Fan L. A meta-analysis of the effect of physical activity programs on fundamental movement skills in 3–7-year-old children. Frontiers in Public Health. 2025.
- Xin F, et al. Relationship between Fundamental Movement Skills and Physical Activity in Preschool-Aged Children: A Systematic Review. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2020.
- Zeng N, et al. Interventions to Promote Fundamental Movement Skills in Childcare and Kindergarten: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine. 2017.
- Barth M, Güllich A, Macnamara BN, Hambrick DZ. Predictors of Junior Versus Senior Elite Performance are Opposite: A Systematic Review and Meta-Analysis of Participation Patterns. Sports Medicine. 2022.
※研究では、基本的な運動技能と身体活動との関連が示されていますが、「基本動作を経験すれば将来必ず運動能力が高くなる」という単純な因果関係を意味するものではありません。子どもの発達には、年齢、環境、個人差、経験などさまざまな要因が関係します。
ATHBASEスポーツ教室 代表 河江 将司
(理学療法士 / 認定スクールトレーナー)
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