
結果を急ぐ大人のプレッシャーが、子どもの「自分で考える力」を奪っている?
こんにちは。帯広のATHBASEスポーツ教室 代表の河江将司です。理学療法士・認定スクールトレーナーとして、子どもたちのコンディショニングと、生涯にわたって運動を楽しめる土台作りをサポートしています。
週末のグラウンドや体育館。試合で一生懸命に走る我が子を応援する親御さんや、熱心に指導される指導者の皆様の姿は、十勝のスポーツシーンの素晴らしい光景です。
しかし、試合が白熱するにつれて、つい大人たちの言葉に「熱」が入りすぎてしまうことがあります。
「なんであそこでパスしなかったんだ!」
「勝たなきゃ意味がないぞ!」
「ミスするな!」
「勝たせてあげたい」「上のレベルにいってほしい」という愛情ゆえの言葉かもしれません。しかし、ここにジュニアスポーツの現場で最も警戒すべき「勝利至上主義(成果主義)」の落とし穴が潜んでいます。
大人が結果(勝敗や成果)にこだわりすぎると、子どもたちから最も大切な「ある能力」が、そっくりそのまま失われてしまうのです。
今回は、スポーツ心理学や指導者講習会の確かな知見をもとに、大人の関わり方が子どもの未来に与える影響を医学的・科学的に紐解きます。
1. 失敗を恐れる「指示待ち人間」の誕生
大人が「勝つこと」や「ミスをしないこと」ばかりを最優先にすると、子どもたちはどうなるでしょうか?
子どもたちの脳は非常にスマートです。「ミスをすると怒られる」「負けるとがっかりされる」と察知した瞬間、脳の危険センサーが反応して筋肉が緊張し、クリエイティブな機能はピタッとフリーズしてしまいます。 そして、「怒られないように、言われたことだけをやろう」「自分で考えて判断するのをやめて、大人の指示を待とう」という防衛モードに入ってしまいます。
本来、スポーツの最大の魅力であり、子どもを劇的に成長させる要素は、「自分で状況を判断し、自発的・主体的にチャレンジすること」にあります。 しかし、大人の過度な結果へのこだわりが、その一番面白い部分(主体性)を奪い、結果を恐れて自分で判断できない「指示待ち人間」を作り出してしまうのです。
2. 「スポーツを嫌いになって辞めてしまう」という悲しい現実
大人の否定的・支配的な指導や、結果への強すぎるプレッシャーは、子どもたちの心に深い傷を残します。
全国の中学生を対象とした大規模な調査(日本中体連など)によると、運動部に所属する生徒のじつに約60%(5人に3人)が「退部を考え、悩みながら活動している」という深刻な現実が明らかになっています。さらに、そのうちの20%強(1/5強)は「何度も本気で辞めたいと思っている」と回答しているのです。
子どもたちが大好きなスポーツを諦めてしまう最大の理由は、「指導方法への疑問(厳しすぎる・怒鳴られる)」「部員同士の人間関係の悪さ」「結果が出ないことへの焦りやプレッシャー」といった、大人側の関わり方やハラスメント、成果主義の押し付けにあります。
本来、スポーツは子どもたちにとって、生涯にわたる「豊かな人間性や社会性」を育むための素晴らしいツール(宝物)であるはずです。しかし、大人の勝敗に付き合わされた結果、スポーツそのものを一生嫌いになってしまう子どもたちが後を絶ちません。
3. 『親が子どものスポーツを評価してはいけない』という大原則
ここで、ジュニアスポーツ指導において大人が絶対に胸に刻んでおくべき、極めて重要なルールをご紹介します。
それは、「親(大人)が子どものスポーツを勝手に評価(ジャッジ)してはいけない」ということです。
「今日の試合、何点取ったの?」「セレクションに合格したか?」といった、『成果(結果)』だけを求めて評価する大人が増えると、子どもはスポーツを純粋に楽しむことができなくなります。 子どもが「お父さんやお母さんを喜ばせるために、成果を出さなきゃ」と、大人の顔色を伺いながらプレーするようになってしまうのです。
本当に大切なのは、他者との比較や試合の勝敗ではありません。 「今日の練習、何が楽しかった?」 「あの時、自分で考えて動けて素晴らしかったね!」
このように、他人と比較した結果ではなく、「昨日のその子自身と比べて、できるようになったプロセス(過程)」を認めてあげることです。 「自分はできるんだ!」という運動有能感(自己肯定感)は、結果のジャッジからは生まれません。大人がそのプロセスの「良きサポーター(環境の提供者)」であることで初めて育まれるのです。
4. 理学療法士が伝える「伸び代(トレーニングリザーブ)」を残すこと
理学療法士として医学的な視点から見ても、子どもの時期に「今、勝つこと」だけを目的にした偏った猛特訓(早期専門化)をさせることは、怪我のリスクを劇的に高めるため大変危険です。
成長期の子どもの骨には、骨が伸びるための非常に柔らかい「骨端線(成長軟骨)」があります。 「今、目の前の試合に勝ちたいから」と、痛みを我慢させて走り込ませたり、過度な練習を強いたりすると、筋肉が悲鳴を上げる前に柔らかい骨や軟骨が剥がれたり潰れたりしてしまいます(オスグッド病や野球肘などのスポーツ障害)。
あのメジャーリーガーの大谷翔平選手でさえ、高校生になっても骨端線(骨の成長線)が開いていたため、当時の指導者は過度な投球負荷をかけず、将来を見据えて慎重に負荷をコントロールしていたという有名なエピソードがあります。
子どもの時期に必要なのは、今すぐ手に入る勝利の勲章ではありません。将来、どんなスポーツにも挑戦できる**「広い身体の土台(36の基本動作)」と、大人になってもスポーツを愛し続けられる「心の伸び代(トレーニングリザーブ)」を残してあげることなのです。
まとめ:ひとつ目の山を登らせるのではなく、どんな山にも登れる「土台」を
私たちは、子どもたちに「今、目の前にある一つの山(目先の大会での勝利)」を大人の力で登らせるような指導はしたくありません。 大人に手を引かれて登った山は、大人がいなくなればもう登れなくなってしまいます。
そうではなく、子ども自身が「体を思い通りに動かす楽しさ」を実感し、失敗しても自分で考え、何度でも自発的に立ち上がれるような、「どんな山にでも自分の力で登れる頑丈な土台(心と身体)」を地域全体で育てていきたいと考えています。
「最近、子どもがプレッシャーで楽しそうにプレーしていないな」 「技術指導ばかりで、怪我を繰り返しているけれど大丈夫かな……」
そんなときは、一度立ち止まって、身体と動作の専門家である理学療法士にご相談ください。 十勝・帯広のすべての素晴らしい子どもたちが、10年後、20年後も笑顔で、最高のパフォーマンスでスポーツを愛し続けられるように。 私たち大人が正しい知識を持ち、最高の「ブレーキ」と「サポーター」になっていきましょう!
ATHBASE 代表 河江 将司 (理学療法士 / 認定スクールトレーナー)
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【引用・参考文献】
- 『スポーツ万能な子どもの育て方』(小俣よしのぶ 著)
- 徳島大学 荒木秀夫 名誉教授「みんなのハテナ」解説
- 公益財団法人運動器の健康・日本協会 養成講習会テキスト(武藤芳照 教授、山田稔 教授、菊山直幸 教授)
- スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」