
「たくさん頑張れば速くなる」の思い込みが、子どもの一生の健康を奪ってしまうかもしれない
こんにちは。帯広のATHBASEスポーツ教室 代表の河江将司です。理学療法士・認定スクールトレーナーとして、子どもたちが怪我なく大好きなスポーツを続けられるようサポートしています。
陸上競技や新体操、フィギュアスケート、サッカーなど、十勝でも様々な競技に一生懸命打ち込んでいる女子選手たちがたくさんいます。
そんな中、保護者の方や指導者から、このような声を耳にすることがあります。
「もっと走れるようになるために、少し体重を落とさせた方がいいですか?」
「周りの子がみんなスリムだから、うちの子も食事制限(ダイエット)を気にし始めていて……」
実は、成長期(特に女子ジュニア期)の過度な食事制限や体重制限は、パフォーマンスを上げるどころか、将来にわたって致命的なダメージを身体に残すリスクがあります。
これは単なる「調子の良し悪し」の問題ではありません。今回は、理学療法士、そして女性アスリートの健康支援の観点から、大人が絶対に知っておくべき「成長期のやせと骨の科学」について詳しく解説します。
1. 成長期の子どもが抱える「エネルギーの優先順位」
大人のダイエットと、子どもの食事制限は根本的に意味が異なります。
以前のブログでもお話ししましたが、成長期の子どもには「生命維持」と「運動」に加えて、絶対に無視できない最優先の使い道があります。それが「成長・発達のためのエネルギー」です。
運動量に対して食事からのエネルギー摂取が不足している状態を、医学的に「利用可能エネルギー不足(LEA)」と呼びます。この状態に陥ると、身体は生命を維持することを最優先するため、「身長を伸ばす」「骨を強くする」「生殖機能を正常に保つ」といった成長のためのエネルギーを真っ先にカットしてしまいます。
2. 恐ろしい「女性アスリートの三徴(3つの連鎖)」
運動量に対してエネルギー(食事)が不足すると、女子選手の身体には医学的に極めて危険な「3つの連鎖(女性アスリートの三徴)」が引き起こされます。
① 利用可能エネルギー不足
厳しい減量や「やせたい」という思い込みから、食事量を極端に減らして運動を続ける。
② 視床下部性無月経(生理が止まる)
エネルギー不足を察知した脳の視床下部は、「今は妊娠・出産ができる状態ではない」と判断し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌を大幅に減少させ、生理(月経)をストップさせます。 日本陸上競技連盟のガイドラインでも、**「生理(月経)がこないようでは骨が減る」**とはっきりと警告されています。
③ 骨密度の低下(骨粗鬆症・疲労骨折)
女性ホルモン(エストロゲン)には、骨にカルシウムを蓄えて強くする極めて重要な働きがあります。 生理が止まるほどのエストロゲン不足が続くと、10代であっても骨がスカスカになる「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」になり、ジャンプや走り込みといった日常の練習負荷だけで骨が折れてしまう「疲労骨折」を繰り返すリスクが非常に高くなります。
まさに、「つらい減量で、骨は減り、疲れた筋肉が骨を守れなくなって疲労骨折を起こす」という最悪のスパイラルに陥ってしまうのです。
3. 骨の貯金ができるのは「一生に一度、今だけ」
「大人になってから食事をしっかり食べれば、また骨は元に戻るでしょ?」と思われるかもしれません。 しかし、それは間違いです。
人間の骨量(骨の中のカルシウムなどの量)は、思春期(初経の前後など)に爆発的に増加し、10代後半から20代前半にかけて人生のピーク(最大骨量)を迎えます。 この時期までにどれだけ骨を強くしておけるかが、一生の骨の健康を左右します。
もし、この「骨の黄金期」に過度なやせや無月経を放置してしまうと、骨の貯金が全くできないまま大人になり、将来、若くして不妊症に悩んだり、20代・30代という早さで深刻な骨粗しょう症を患ったりする可能性が極めて高くなります。
「今、この試合で勝ちたいから」という大人の焦りや、本人の思い込みによるダイエットが、お子さんの将来の豊かな人生や、健康な身体の土台を根こそぎ奪ってしまうかもしれないのです。
まとめ:大人の正しい知識が、女の子たちの未来を守る
陸上競技連盟が推奨する「疲労骨折予防の10か条」には、このような言葉があります。
- 「生理がこないようでは骨が減る」
- 「つらい減量で、骨は減る」
- 「よし、走るのちょっとやめよう、痛ければ走るのをやめる勇気も必要です」
指導者や保護者といった周囲の大人が、「やせれば速くなる」「体重が軽い方が有利だ」と、一方的なプレッシャーをかけることは非常に危険です。特に、成長期の骨の成長が止まる時期には大きな個人差があり、過度な負荷をコントロールする大人の「ブレーキ」が必要です。
まずは、「しっかり食べること」「十分な睡眠をとること(9時間以上)」という規則正しい生活習慣を徹底させてあげてください 。それが、10年後、20年後に最も高いパフォーマンスを発揮し、大好きなスポーツを笑顔で愛し続けるための、最強の「トレーニングリザーブ(貯金)」になります 。
もし、「練習後にいつもどこかを痛がっている」「最近、急激にやせて元気がなさそう……」など、お子さんのコンディショニングに不安を感じたら、身体の専門家である理学療法士へいつでもお気軽にご相談ください。
医学的データに基づき、一人ひとりの成長段階に合わせた最適なサポートをさせていただきます!
ATHBASE 代表 河江 将司 (理学療法士 / 認定スクールトレーナー)
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【引用・参考文献】
- 女性アスリート健康支援委員会「女性アスリートの今と未来を守るために」
- 日本陸上競技連盟 医事委員会「疲労骨折予防の10か条」
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」
- 『スポーツ万能な子どもの育て方』(小俣 よしのぶ 著)